引きこもりの病理

元農水次官長男殺害事件で、長男は父親に対して暴力を振るうと共に「俺の人生は何なんだ」と叫んでいたという。引きこもりはどうしようもない悲しみの中で生きている。自身の人生に絶望し、生まれてきたことや自身を生んだ親を呪うのだ。

精神科医斎藤環氏の書いた家庭内暴力についての文章を読んだ。
http://cocorono.jp/violence.html

『どのような対応をするにせよ、まず暴力の背景を十分に理解しておくことはどうしても必要です。客観的な事実はどうあれ、本人の中では、これまでの人生が惨憺たるものだったとの思いが強くあります。受験に失敗したこと、自分の容貌のこと、恋人や友人が出来なかったこと、望んだ会社に入れなかったことなど、本人はみずからのこれまでの歴史を、あたかも失敗の連続のように捉えているはずです。彼らが辛うじて自殺の誘惑に陥らずに済んでいるのは、まさに「失敗」を他人のせいにすることによってです。
 しかし本人は必ずしも「自分がこうなったのは親のせい」であると確信しきっているわけではない。家庭内暴力のケースを治療してゆくなかで、ほとんどすべてのひとが「自分は親に迷惑をかけ続けてきた、ダメな人間である」と告白します。これもまた、彼らの本心なのです。このように彼らは自責と他責の間で引き裂かれ、心やすらぐことのない日々を過ごしています。精神分析家の神田橋條治氏が指摘するように、家庭内暴力の背後にある感情は、「憎しみ」ではなく「悲しみ」なのです。』

私の知り合いにも引きこもりが数人いる。共通するのは、親が過保護というか優しくて子供を手放せないことと、兄弟が優秀でその兄弟と比較して自身を蔑んでいることだ。川崎殺傷事件の犯人はいとこがおそらく犯人よりかは優秀でいとこと自分を比較していたのではないかと思う。元農水次官長男は一人っ子のようだが、元農水次官である優秀な父親と自身を比べている。

子供を引きこもりにしないように育てるにはどうすればよいか。私が思うのは、自己肯定感を高めること、自立できるようなスキル(料理や金の管理など)を身につけさせること、18歳以降は自分の金で生計を立てて自活するように言い聞かしておくことである。

私が子供に一番望んでいるのは、人生を楽しんで生きてほしいということだ。自分の人生なのだから、好きなように楽しんで生きてほしい。2歳の息子はすでに好き嫌いがはっきりしていて、好きなことには夢中になるが、嫌なことは絶対にやらないし、こだわりが強い。出る杭は打たれる日本社会では自己主張の強い人間は生きづらいかもしれない。私も夫も今は楽しく好きなことをして生きているが、そこに至るまではつらいことも多かった。いろんな世界があり、いろんな人生があることを子供には知ってほしい。